古書ノーボのブログ

本や店の話。

トンカ書店さんの話 その4

 初めてトンカ書店さんに入った時のことは一応覚えている。他の店と同じように入口の均一棚を見、店内に入って正面の棚から右手の方へ見進めていった。コミックのあたりが特に興味を引いたのも覚えている。ただ、その時買ったものを覚えていないということは、百円均一の本を2、3冊買ったのだと思う。とりあえず普通の古本屋と同じように振舞ったのだが、それは逆に普通の古本屋とは違う店だという先入観があったからかもしれない。トンカさんは他のお客さんと話していたように思う。また、十代か大学生かといった若いお客さんが入って行く(入って来る)ということにも気が付いた。あらかじめ情報のあった店だったけれども、緊張したのは間違いなかった。そのせいか他の感想ははっきりしない。あと確かなのは最初一階の入り口はどこか少し探したことである。

 次に来店した時もそれほど変わったことはなかったはずである。ただ3回目以降はおそらくフリーペーパーに注目し始めたと思う。大量のそれをごそごそと漁ることに時間を費やすようになっていった。来店を重ねるごとにフリーペーパーを見る時間が増え、店に入る前にそうしたり、それだけを見て店に入らないということも一度あったように思う。また入って左手のコーナーにも目が向きはじめた。そちらには古本でなく自主出版物、ミニコミ誌やリトルプレス、また新刊も置いていた。それらは扱う店が神戸でここだけのものが多かった。古本を見ないわけではなかったが、次第にここだけにあるものを目指して、また面白そうな展示を知って行くようになった。

 そうして今に至るということになるのだが、振り返ると最初店に入る時に「感じた」大事なものを見逃しているのではないか、と気が付いた。もっと単純に店に「入る時」に感じたことといえば、それはもう視覚的な印象などではなく、覚えていることをそのまま失礼ながら表現すると、なんか妙な音楽が流れている、だった。トンカさんの店で流れている音楽をどう呼ぶのか、私の語彙では「レトロ歌謡」ぐらいしか浮かばないが、とにかく意味するところは店でいつも流れている音楽のことである。私にとっては、この音楽が示すものがトンカ書店さんなのだった。その音楽の流れている空間、作り出す雰囲気だけではない。また単に店主の好みを示すだけでもない。この音楽を選んでずっと流しているということは様々な意味があり、人によって受け取り方の異なるそれを一つ一つ列挙はしないが、それらすべてがトンカ書店さんを表現していることになると思う。